LIGNA2019視察報告
 国際木工林業機械見本市「リグナ・ハノーバー2019」が5月27日~31日までの5日間開催された。今回は日本からの来場者が多く訪れることが予想できたため、弊社も初日から5日間の予定でハノーバーに滞在した。ドイツは日本に比べるとまだ肌寒く、特に朝晩はかなり冷え込む日もあった。一方、日中は日差しが差し込むとポカポカした陽気になり、そんな日は日没も遅いアフターファイブをのんびり楽しむことができる。ワークライフバランスの整ったドイツに“働き方改革”を学ぶいい機会になりそうだ。
“日本人が多かった”と今回リグナを訪れた日本人がみな異口同音にした言葉だった。特に機械ユーザーの数は、リーマンショック前の好況期を凌駕していた印象を受けた。ユーザーがリグナに期待することは、人口減少や熟練工引退などの人材不足へのソリューション、消費者ニーズの多様化に対応した一品生産化、デジタルツールやIoTを活用したスマート工場化、CLT等の新しい木製品に対応し国産材を有効活用する手法、といった課題を解決することだろう。ユーザーが積極的に機械の更新や工場の効率化に取り組めるのは、日本の各省庁が推し進めている補助事業であり、税制の優遇であることも間違いないと思う。
 日本人が多かった一方で、中国人やロシア人は少なかったという声も聞かれた。ただ、中国人は以前は視察団を組んで大勢で来ていたが、今は個人もしくは小グループで来ていると私は感じた。
 ヨーロッパの木工機械メーカーは、リーマンショック後厳しい経済状況下に置かれていたが、ここ数年でリーマン以前の水準にまで戻りさらに生産を伸ばしている。ヨーロッパの木工機械業界をリードするドイツ、イタリア2ヵ国国で見てみると、リーマン以前の2007年は木工機械生産は好況期にあり、両国の木工機械生産高はおよそ50億ユーロを上回った。その後30億ユーロにまで落ち込んだが、2018年には60億ユーロに届く勢いである。2019年度がこの勢いのまま進めばかつてない生産高を記録する可能性がある。
 展示会場の小間構成は、前回と比べると規模も業種毎エリアもさほど変わっていない。ただ、各ホールの中央を占める巨大メーカーはさらに小間数を増やし巨大化し、それを取り巻くのが小間数も小さい小規模メーカー、という構図が顕著になっている。ホマッグ、SCM、ビエッセ、ヴァイニッヒ、フェルダー、IMA、といった巨大メーカーはM&Aでさらに大きくなり、取り扱う機種も多種多彩になっている。展示会場の中央の屋外展示が今回は縮小した印象がある。バイオマスの潮流に乗り粉砕機やチッパー機が前回までは多く迫力ある実演展示があちこちで見られたが、今回大々的に実演していたのは数社ほどだった。バイオマスが下火になったわけではないので、バイオマス関連設備はある程度ヨーロッパでは落ち着いた証拠なのか。今回のリグナのアジェンダの一つは“スマート化”であった。工場規模の大小に関係なく、家族経営の小規模工場から量産型の大規模工場まで、デジタルツールやIoTを活用し、工場をオートメーション化する、かつてないテクノロジーの進化にチャレンジする展示会である。デザインから設計、生産管理、マシニングデータの生成、搬送、出荷、在庫管理に至る工場の一連のフローをデジタルを基軸にネットワークでつなぐ。しかも、普段身近にスマートホンやタブレットをいじるように、工場の生産ラインをそれらデジタル端末で簡単に操作してしまう。最終製品は消費者ニーズにより多様化し、それに伴い生産ラインもワンバッチ生産に対応して複雑化しているが、生産ラインの機械と機械を物理的につないでいるのはロボット達である。人間が介在するよりミスがなく、何より人件費を抑え人材不足に悩むことはない。メンテナンスでも、機械の故障を事前に予知し、突然の機械停止のトラブルに備える。数年前にドイツがインダストリー4.0を掲げた新しい産業革命が、この木工業界でも、日本においても少しずつながら変化をもたらし工場の規模関係なしにその概念と方向付けは工場の経営者や管理者には植え付けられたと思う。数年前までちょっと夢物語な感じがあったスマート工場化が現実のものとなってきている。

リグナ各コマ見て回り:加工機械編
 ソリッドウッド(無垢材)エリアの機械では、弊社が代理店をしているPADE(イタリア)が3台の機械を展示した。そのうち2台は、生産ラインに従来のCNCマシンニングセンタを組み込んだ形での展示である。一つは“アイスホッケーのスティック”を生産するライン。CNCのテーブルに材料を搬入し、加工後に搬出する作業はクカ(Kuka)のロボットが担当する。CNCマシニングセンタ(モデル:クリッパー)の特徴としては、従来の十字型の4スピンドルではなく、そのうち一つのスピンドルをダブルエンドのスピンドルモーターにし、全部で5本の刃物を取り付けることを可能にした。もう一つのラインは木製サッシ生産専用ライン。CNCマシン前後の般送装置には自動のコンベアラインを組み込み、CNCマシニングセンタ(モデル:バリオ)は2ヘッドのDuoタイプで1ピースの左右を同時に加工することで生産量を2倍にする。いずれも従来型のスタンドアロンのCNCマシニングセンタから、スマート工場に適応したライン生産型への提案だった。PADEでもう一つ注目すべき機械は、バンドソーを組み込んだ多軸マシニングセンタである。PADEとMZ社との企業合併による新しいテクノロジーである(パテント取得)。バンドソー(帯鋸)による切断加工の他、3軸ルーターヘッド、ボーリングユニット、丸鋸軸を持ち、合板やMDFを数枚重ねて加工することができる。バンドソーはあらゆる角度で切断ができるので、直線はもちろん曲線加工もできる。
 ソリッド加工用CNCマシニングセンタを製造するBACCI(イタリア)は、FANUC製ロボットを使ったオートメーションシステムを提案。CNCマシンは、2ヘッドで加工スピードを短縮するエボや、テーブルクランプにCNC自動位置決め装置やジグレスクランプを装備したマスターなどを展示した。
 旋盤型のCNCマシニングセンタが進化している。GREDA(イタリア)やINTOREX(スペイン)は、旋盤をベースにした多軸CNCマシニングセンタを開発している。GREDAのMITIKAは、旋盤軸で材料を固定し加工軸にATC付きの5軸ルーターヘッド、丸鋸軸、カッターヘッド、サンディングヘッドを装備している。INTOREXのTMCも同様の機械構成になっており、旋盤加工だけでなく、360度好きな角度で加工することができる。これまでは吸着やクランプ式の固定方法だと不可能だった加工がこの機械で可能になる。材料を置き換える時間の短縮と加工精度の向上が大きなメリットである。プログラム及びシュミレーションソフトには、まだ日本ではあまり普及していないがDDXが使われる。
 新たな安全装置を搭載した機械の発表もあった。アーテンドルフ(ドイツ)が開発した安全テクノロジーASAは、スライドソーの丸鋸カバーに“手”を感知するセンサーを取付け、手が丸鋸に触れる危険を探知したら丸鋸が自動で定盤の下に下りる機構を搭載した。スライドソーや横切り盤の危険性は長年の木工業界の課題である。これまでは、ソーストップ(Sawstop)が指を感知したら丸鋸が落ちる装置を作っていたが、指を切ってしまう上に装置は一度落ちると壊れてしまう。アーテンドルフのASAは手が鋸に触れる前に鋸が下り、その後の復旧もボタン一つの操作だけで済む。手にグローブをはめた状態で使用してもこの安全センサーは働くので安心だ。熟練した家具職人や大工職人が少なくなっている昨今、若い人が安心して木工業界で働くことができるようになるためにもこのような安全装置が普及してほしいと願う。
 ヨーロッパの4大メーカー、ホマッグ(ドイツ)、ヴァイニッヒ(ドイツ)、SCM(イタリア)、ビエッセ(イタリア)の情報は、日本法人や日本の総代理店から手に入るので、ここでは差し控えたいと思う。ただ、SCMのブースにBALESTRINI(イタリア)のブランドを冠したCNCマシニングセンタが展示されていたのが印象的だった。BALESTRINIはかつて、先に紹介したPADEやBACCIと共に脚物家具に特化したCNCマシニングセンタを開発製造していた有名ブランド。その技術がSCMの資本のもとで完全復活していた。展示されていた機械は2台あったが、そのうち一台はアルミフラットテーブルに5軸制御の1スピンドルで加工するシンプルな機械だが、吸着システムにCNC制御の昇降システムを採用、フラットテーブル上に自由に設置できるのが特徴であった。
 ソフト関連では、PYTHA(ドイツ)が注目の3次元CADである。3Dモデリングから、部品図展開、そしてCAMによるCNCマシニングセンタの連携と一連の作業をこのCADソフト一つでこなすことができる。煩雑な作業である部品図の作成もソフトが自動で展開、計算してくれる。CNCマシニングセンタへの連携も万全で、ホマッグ、ビエッセ、SCMといった大手機械メーカーのソフトは既に組み込まれている。

リグナ各コマ見て回り:製材機械編
 製材関連の機械は、例年通り1ホールにまとまっていた。規模も出品者も前回とそう変わりはないように見える。
 リングバーカーの最大手であるVALON KONE(フィンランド)は、大型のリングバーカーを2台展示した。VK100モデルのリングバーカーは、その名の通り100cmまでの大径木に対応している。送材スピードが最大毎分45mと大径木向けバーカーとしては高速送材の能力を誇るバーカーである。もう一台はVKバーカーの最上位機種のVK8000バーカー。展示機械はシングルローターのエアシールタイプを採用し、遠隔操作による刃圧調整や丸太が機械内で停止した場合の自動開閉システムを可能とした。また、モジュラーシステムの採用により、段階的な設備投資に対応し容易に機械ユニットを増設することができる。製材機械の高速化によりバーカーも送材スピードの高速化が要求されているが、現状ではダブルロータータイプのリングバーカーが毎分150mの送材スピードを誇る。
 製材ラインでは、ヘイノラ(フィンランド)が製材工場をトータルプロデュースする機械一式を揃えている。製材機械では、最新の製材ラインSL250タイプのフルプロファイラが日本、ロシアで最近導入されこの展示会でも紹介された。ヘイノラ製木材乾燥機では、オートメーションにより搬入から搬出までを制御し、一方方向に連続的に乾燥させる“プログレッシブ”タイプの乾燥機が主流になっており、北欧を中心とした大規模製材工場での導入が進んでいる。ヘイノラのソーターラインは、スキャナーの進化により材の上下面を同時に画像処理し寸法や欠点を瞬時にデータ化することができ、処理能力も向上し1分間に180枚の製材を処理する能力を有する。ヘイノラのグループ会社であるHEKOTEK(エストニア)もヘイノラと共同展示をし、選木装置や製材ライン前の投入装置やソーターラインを紹介した。地理的優位性からロシアでの納入実績が多くサポート体制も充実している。
 小径木製材ラインを得意とするHEWSAW(フィンランド)は、製材ラインの更なる高速化を実現するために“dxソーイング”システムを実機と共に展示した。dxソーイングとは、ギャングソーの丸鋸の手前に“毛引き刃”のように一回り小さい丸鋸を取付けて2段階で製材する方法である。2段階で丸鋸を通すため、通常の丸鋸よりアサリ幅を小さくすることができ製品歩留りも向上する。
 丸鋸製材機械のリンク(ドイツ)は二台の製材機械を展示した。一台はチップキャンターを搭載した短尺対応製材ライン。もう一台はプロファイラの新機種である。新機種のプロファイラの特徴は、タイコ材のカーブソーに適応したピボット機構を搭載したことと、機械の入替えや増設に対応するためにコンパクト設計にしたことである。機械はコンパクトにまとめられているが、最大132kWモーターを搭載することができ重厚な機械仕様になっている。
 その他のメーカーでは、EWD(ドイツ)が1800mm径タイヤ仕様のクォードバンドソーを展示していたのが圧巻であり、見学者は見学通路に従って機械の上から中から機械構造を見ることができた。USNR(アメリカ)は、最新の製材横送りタイプのスキャナーと、“CamShift”と呼ばれるローター引出しタイプの新しいバーカーを展示していた。スキャナーメーカーのマイクロテックは、製材分野ではX線のログスキャナーを展示した。X線ログスキャナーは丸太内部に入り込んだ銃弾などを検知する目的でかつては使用されていたが、最近では丸太の等級分けを製材前に行うことを理由に使われている。
 製材機械メーカーは数が少なくなる一方であるが、新しいメーカーの出品が数社あった。例えば、黄色と黒の機械塗装が印象的なSKYWOOD(ウクライナ)は、比較的小型な製材機械、ギャングソーやエジャーを展示していた。屋外展示場にもブースを構えており積極的なセールスをしていた。日本からはオー・アイ・イノベーションがパネル展示でブースを構えており、引き合いも多く反響は良かったと聞いている。全般的に展示会には活気があり盛況であった。
 前述したように、数字的に見てもリーマンショック以前の水準を超えているのが展示会場の雰囲気からもよくわかった。“スマート工場化”に向けて、機械メーカーが提案するソフトやネットワークシステムは年々展示会を経るごとに進化を遂げている。展示会を通して機械ユーザーが、工場の規模の大小に関らず、最先端のIT技術やデジタルツールを現工場に取り入れて積極的に設備投資する契機になれば良いと思う。
 
 次回の“LIGNA2021”の開催は、2021年5月10日(月)から5月14日(金)に決まった。次回のリグナがもう楽しみである。































                          薄暮のハノーバーの街並みを散策


1879年に建てられたハノーバー中央駅の復元全面改修工事も終えていた


       いつもと変わらない北入場口 NORTH (NODO1 )

▼各ホールを巡りながらアトランダムにシャッターをキリました

























































さて、本場のドイツビールで足の疲れを癒そうかな

寄稿 LIGNA2019

株式会社コーエキ
代表取締役 野田 正峰

                                                                 Woodfast '19-7        
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